月見と秋の七草 宇治市植物公園

2020、10.1

園長 魚住智子

皆さんこんにちは、宇治市植物公園の魚住智子と申します。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

今日はお月見だというお話がありました。ちょうど私の卓話のお話をいただいた時にどういったお話をさせていただこうかと考えていたときに10月1日はお月見の日ということがわかりまして、お月見の話をさせていただいて、植物のお話をといただいておりますので秋の植物を少し紹介したいと思います。

まずお月見ということなんですが簡単に紹介をさせていただきます。お月見といいますのは旧暦の8月15日十五夜、今日は十五夜ではないということなんですけども、この日の月のことを仲秋の名月といいます。この旧暦の8月15日というのがこれは毎年変わるのですが、今年はたまたま10月1日の今日がお月見の日になるということです。実はもう一つ、お月見の日がございまして旧暦の9月13日の月を十三夜と申します。この月後の月、または豆名月、栗名月とも言うのですけども今年はこれが10月29日ということです。もし、今日は雨が降って天気が悪かったらもう1回チャンスがありますよということですが今日は大変お天気ですので両日お月見ができるのではないかと思います。実は二つあるんですね。なんでかなということですが十五夜といいますのはそもそもは中国から入ってきた文化で、奈良、平安時代辺りに入ってきたそうです。それに対し十三夜と申しますのは実は、これは日本の独特のお月見らしいです。中国の方には十三夜というお月見はないそうです。お月見が奈良時代、平安時代あたりに日本に入ってきて、これは10世紀になりますと宇多法皇という方が月見を行ったということが文献に記されております。これは詩歌や管弦を楽しむ、宴のようなものであったということで当時の貴族社会だけ流行したようです。これが14世紀になりますと室町時代に入って行きますが、宴は段々と簡素化されていきます。で、室町時代後期になってもうちょっと簡素化されて、お供えをしてお月さんを拝むというような文化に変わっていったようです。これ、当時はまだ庶民にはなかなかこういった文化はなくて、どちらかというと貴族社会に流行っていた文化だったようです。 

それがさらに進むと今の様相に近づいて参ります。江戸時代に入りますと十五夜の夜に芋煮をして夜遊びをするというような、ちょっと庶民に馴染むような文化に変わっていったようでございます。これが江戸時代後期になりますとお供え物として団子を供えるようになります。この時に江戸のほうでは丸い形の団子、京都、大阪、関西の方では里芋の形の団子を供えたという記述があるそうです。このあたりから今の月見と近くなってきたようでございます。実は、日本ではこういう文化があるんですけども東アジアの方では旧暦の8月15日、ちょうど十五夜と言われるお月見をするときに芋の収穫祭を行っていたというような慣習があったようです。日本でもこの時期はちょうど里芋の収穫時期となるということで関西では里芋のような形のお団子を供えたのでしょう。

そして、現在なんですけどもお月見さらにさらに発展しまして、実はこの宇治という土地は日本名月100選の二番目に認定されているということを知りまして、認定の第2号ということで宇治の月で宇治公園、塔の島の月、宇治橋の三の間の月が日本名月100選の第2番目に認定されているということでございます。種別にB類と書いておりますけどもこれは何かと言いますとお月見をしながら何かイベントを行う場合がA類と認められていて、B類というのは綺麗なお月さんが見えますよという場所のみのものでA類、B類という分け方がされているものでございます。それにしても第2番目に認定されているということは宇治って歴史のある街だなと思います。お月見をされるということでお団子と一緒によく絵なんかを見てますとススキが飾られていることが多いですね。やはり季節の花ということで飾っているのかなと思っていたんですが実はもっと深いものがあったようでススキといいますのは収穫への感謝や魔除けの意味もあるようです。穂が稲穂に似ているということで収穫の感謝という意味を込めて一つはススキを飾っているようなお話があります。もう一つ、ススキという植物は茎の中が空洞なんですね。そこに神様が降りていらっしゃるということでこのススキが飾られているということがあるようでございます。悪霊や災い除けや、収穫の豊作を願うという意味が込められているようでございます。地域によってはこのススキを月見の後にちょっと庭先にさして魔よけにしたというお話もあるようでございます。今はススキだけではなくて、例えばススキと一緒にコスモスが飾られたりとか秋の七草とか、季節のお花を飾られることもよくあることなんですけども、せっかくですね、私、植物園から来ておりますので植物の話も少し交えながらお話を進めて参ります。

秋の七草を紹介したいと思います。

植物をそれぞれ紹介していく前にこの秋の七草はどこから始まっているのかということを少しお話していきます。歌が2種ございます。万葉集に書かれました山上憶良の歌でございます。ネットで歌。

秋の野に咲きたる花を 指折りて かき数ふれば 七種の花 

萩の花 をばな葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝顔の花

ここから実はこの秋の七草というのは始まっているようでございます。この後それぞれ一つずつお花のご紹介とエピソードをお話していきたいと思いますがこの中で一つ気になるのが朝顔です。この歌が詠まれた頃、現在の朝顔というのは日本には渡来してないそうです。この朝顔につきましてはいろんな説がありまして後ほどご紹介したいと思います。これが桔梗の花であるということが今は定説になっております。

まずおばなですね、動物の尾っぽに似ているいうことでおばなという名前がついておりますがススキのことでございます。先程ご紹介しましたように神様の       

依り代とか、収穫の稲穂に見立てているとかいうことがございますけども、イネ科の多年草でございます。ススキをかやぶき屋根に使ったり昔から利用されていた植物でございます。今年はちょっとススキの出が、出穂が遅いなと思ったんですがなかなか梅雨の日照不足か影響しているのか、またまた夏の高温が影響しているのか、よくわかりませんけどもちょっと今年は遅めですね。

次はなでしこの花でございます。

なでしこと言いますといろんな種類がありますけどもカワラナデシコのことです。ナデシコ科の多年草で源氏物語に登場する昔からある植物でございます。よくヤマトナデシコとか、カラナデシコと言い方がございます。ヤマトナデシコというのはカワラナデシコと呼び方が違うだけで同じナデシコでございます。それからカラナデシコ、これも源氏物語に登場するんですがこれはセキチクの事でして、もう少し小さくてどちらかというとそそとした美しさではなく、華やかな美しさの種類でございます。実はナデシコの咲いてくるのは秋の七草と言いつつも、もっと夏なんですね、はやければ7月ぐらいから咲いている植物です。昔とはちょっと季節分けが違いますので秋の七草に詠まれています。なでしこでございます。

次はオミナエシでございます。

漢字で書きますと女郎花と書きますけどもこの女郎というのは昔は高貴な女性のことを意味していたそうでございます。オミナエシ科の多年草でございます。名前も漢字で書くとすごく綺麗な名前でお花の色も黄色で鮮やかで美しいですけども、実は独特の香りを持っております。簡単に言いますとちょっと臭いです。綺麗なお花だけれども独特の香りを持っている植物でございます。このオミナエシなんですけども実はちょっとしたエピソードがございます。この山城地域に因んでいるということでご紹介します。その昔、平安時代、奈良時代頃に小野頼風という方が都にいらっしゃいました。この方が都で親しくなった女性がいらっしゃったんですね。都の方で仕事をされてましたのでゆくゆくは故郷の近江に帰らなくてはならない。ということでこの小野頼風さんは近江のほうに帰ってしまいます。女性の方はもちろん京都に残ったままなんですけども、どうしても恋しくなって小野頼風さんを追ってこられたんですね。追ってきて丁度八幡辺りに着いた時にこの小野の頼風さん、実は地元に帰られて新しい奥さんをもらわれたと聞かれました。それにショックを受けて倒れ亡くなられました。その時に着ていた衣がやまぶき色の衣を着ておられたということで、亡くなられた場所で山吹色の花が咲いていたのがこのオミナエシであるというエピソードがございます。     

こうやってお話しますと作り話ではないかと何となく思ってしまうんですけども実はそのエピソードを象徴するものが八幡市の松花堂のほうにございます。女郎花塚、今、お話したエピソードが書いてあってこういうものが八幡にあるということでより真実みがあるのかなと私は見に行きますと、石碑の前に女郎花が咲いていました。

次は萩の花です。

漢字を見ますと秋の代表するようなお花というのがわかりますね。秋に草冠がついております。芽子、それから鹿鳴草という別名があります。

萩の花

家畜の飼料や垣根なんかに使用されまして萩というと秋をイメージしますが鹿の発情期にこの萩の花が咲くということでこういった名前がついているそうです。ちなみにこの萩の花、垣根に利用しているようです。ミヤギノハギといい枝が下に垂れるような長い枝の萩の種類ですがこのお花を使って垣根を作っています。仙台野草園では手づくりだと聞いております。実はこの萩の垣根は先程の松花堂に沢山種類がありまして機会があれば見ていただければと思います。昔から植物って本当に身近にあってすごく利用されているのだなということがわかります。

葛の花なんです。クズと言いますとあまりいいイメージがありませんが実はすごい植物なんです。2年ほど前に植物で一番何が気になりますかと小学生から質問された時にその葛をあげました。ものすごい利用価値のある植物なんですね。全然そうは見えないのですが今、この葛の印象が悪いのはなんでかなと思いますがマメ科のつる性植物であります。寒くなってくるともうそろそろ必要かなと思いますが葛根湯ですね、クズの根っこの湯と書きますけどもクズは薬用の植物の一つでございます。それから繊維質の植物として葛の茎の部分、つるの部分ですね、ここを繊維にして織り上げた布があります。葛布といいますがまだ作られているということでございます。

それからクズ湯として食用にされています。すごく印象が悪いと言いましたのは何となく高速道路の下にあるすごく絡まっている植物というイメージが非常に多いんです。実はこの葛なんですけども19世紀後半ぐらいにアメリカに渡っています。なぜ渡ったかと言いますと動物を飼育している人とかですね、葛は飼料になるということで輸入され、もう一つは庭園材料として使えるとアメリカに導入されたわけなんです。これは予想以上に生育旺盛でして、思った以上に蔓延ってしまったらしいですね。

で、実際今や手がつけられない状態というふうに聞いておりますけどもそういったこともございましてすごく不名誉な名前がつけられております。世界の    侵略的外来種ワースト100のうちの一つであるというふうに言われております。実は日本にゆかりがあるものとしてこの葛だけではなくてワカメもこの世界の侵略的外来種ワースト100の中に入っているというすごい衝撃的なお話があります。食用に使えるんじゃないかなと思いつつもやはりその繁殖力がすさまじいということで世界の侵略的外来種ワースト100に選ばれております。私の好きな花なんですが。

葛の花なんですけれどもっといいところを見てもらいたいなと思います。

これは奈良の吉野のほうにあります旧森野薬草園に行った時に作っておられた葛粉なんですけど、今はもう作っておられないということです。根っこの部分を潰してでんぷんを取って葛粉にするわけなんですけども貴重なものだと聞いております。なかなか今は作るのも大変そうでございます。 

次はフジバカマです。キク科の多年草で、花は桜もちの香がします。これはクマリン成分を持っているんですけども、香りの植物でございます。私、実はキクアレルギーを持っておりまして、このフジバカマの咲く頃にこの花を展示するのに鉢を運んでいたらくしゃみが止まらなくなったというぐらいキクアレルギーのある方は気を付けていただきたい植物でございます。桜餅のようないい香りがするんですけどもアレルギーの持っておられる方はくしゃみが止まらないということでございます。環境省のデットデータによりますと絶滅危惧二類になって、これは野生の状態で、絶滅危惧種に認定しているものでございます。環境省の方ではレッドデータを7段階に分けまして絶滅の危険が高い順でランクづけがされているんですけども絶滅危惧2類というのは上から五つ目でございますね。絶滅危惧植物の中ではそこまでまだ深刻ではないけども、ちょっと生育数が減ると絶滅してしまう危険がある種類でございます。

実はもう一つ秋の七草の仲間に絶滅危惧種がございます。

これが最後のご紹介するものになるんですが朝顔の花。先程の歌の中にも書いてましたけども桔梗でございます。キキョウ科の多年草でこの花は絶滅危惧種の二類ということで指定されております。環境省以外に京都府でもデッドデータを取っておりまして、京都府の中では絶滅寸前種となっております。これは上から2番目のかなり京都府では絶滅危惧の高い方にランク付けがされております。歌の中の朝顔というのは何かというお話があったんですけども現在の朝顔というのは朝咲いて、お昼には萎んでしまいます。実はこの歌が詠まれた頃はまだ朝顔のお花は日本に入って来てないんですね。もう一つ、朝顔としての夏に咲くムクゲが候補に挙がっていたんですけどもこのムクゲも日本に入ってきたのはもう一歩遅いんです。この歌が生まれた後に入ってきているんですね。では何かということで何で桔梗になったかと言いますといろんな歌や文献をみてみますと朝顔の花の説明として、朝咲いている、夜も咲いているという記述があるんですね。で、それで季節的に考えると、この桔梗ではないかということでこんにち桔梗説が定説にということになっています。

ということで7種類を簡単にご紹介させていただきました。秋の花の他にも沢山ありますね、コスモスもございますし、それからノギクもございますが何を見ても思うのは山上憶良さんの時代に詠まれた歌の中に登場する植物が今の時代にも残っているというのがすごいなと思っております。植物の置かれている状況は様々です。とういうのは絶滅にひんしているものもあります。でもこの7種類がこの1000年以上の時を経てまだ我々が見ることができるということが、先程、葛の話もありまして形は変わって来てますけどもこの時代に残っているということはすごいなと思います。これがさらにまた、この後1000年以上残っていけばいんじゃないかとは思うんですけども、それをしっかりと伝えていくのが我々植物園の役目ではないかと思っております。

最後になりましたけどもこのような情勢で、コロナのことで皆さん生活様式が代わっていらっしゃると思います。その中でも今お話させていただいたように植物というのは常に身近にあるものでございまして我々の生活が変わっても植物はおそらく変わらない。この機会に植物公園に植物を見に来ていただけたらいいんじゃないかなと思います。最後ちょっと宣伝が入りましたけどもお話の当初ご紹介いたしましたように今日はお月見でございますのでぜひ、晴れていますし、お月見も綺麗にできると思いますのでお月見しながらおだんごとか、もし身近にあればススキとか、秋の花を少し飾ってゆったりした時間をお過ごしいただければと思います。簡単ではございましたけども以上、私からのお話を聞いていただきました。本日はどうもありがとうございました。

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