「鳳凰がきた ―宇治を旅する 平等院を旅する-」

2020.11.12

宇治市源氏物語ミュージアム

館長 西澤久美子

皆さんこんにちは。本日はお招きをいただきまして、誠にありがとうございます。宇治市源氏物語ミュージアム館長の西澤でございます。

お話を始めさせていただく前に、資料をご確認ください。平成30年9月1日発行の宇治市政だより、宇治市源氏物語ミュージアム令和2年度事業案内、宇治市源氏物語ミュージアムのチラシ、特別企画展「宇治を旅する 平等院を旅する」のチラシ、宇治市歴史資料館特別展のチラシ、そして最後に、タイムトラベルスタンプラリーのチラシ、全部で7種類ご用意いたしました。いろいろ持って参りました。こちらをご覧いただきながらお聞きいただければと思います。

本日は現在当館で、平等院ミュージアム鳳翔館と初めて共催で開催しております特別企画展「宇治を旅する 平等院を旅する」についてお話をさせていただきますが、その前に少し当館につきましてお話をさせていただきます。

皆様もすでによくご存知の通り、宇治市ではふるさと創生事業を契機に、全国的な女性文学の興隆を目的とした「紫式部文学賞」の制定をはじめ、「源氏物語をテーマとした街づくり」に積極的に取り組み、それらの事業の集大成として、平成10年11月に源氏物語ミュージアムを開館いたしました。その後、開館10周年の平成20年は、源氏物語千年紀の大きな節目の年であったことから、第1回目のリニューアルを実施し、平成20年度の入館者数は、開館当初に見込んでおりました10万人をはるかに超えて20万人と倍増いたしました。その後は、年間10万人前後の入館者数で推移しております。10万人という入館者数ですが、マスコミと共催した大量宣伝と大量集客を前提とした、ブロックバスターと言われる大規模巡回展を組み入れていない博物館といたしましては、かなり優秀だと自負しております。そして、それから8年後、平成28年度に「基本構想」と「基本設計」をまとめ、満を持して開館20周年の平成30年に第2回目のリニューアルを実施し、「観光」と「学習生涯」の拠点として生まれ変わりました。これからも、世界で唯一の『源氏物語』に関する博物館施設として、本市の文化・観光に大きな役割を果たして参ります。

それでは、第2回目のリニューアルで新しく整備いたしました平安時代の貴族文化や生活を体験できる展示資料、「当館でしかできない体験」につきまして、少しご紹介させていただきます。

平成30年9月1日発行の宇治市政だよりの9頁を開いてください。「源氏物語ミュージアムからのお知らせ」の横にリニューアルオープンの記事が掲載されておりますので、あわせてご覧ください。

まずは、上のイラストになりますが、平安京と光源氏がテーマとなっております「平安の間」でございます。皆様には「牛車」や「六条院」が展示しているところと言えば、「あ、あそこか」と思い出していただけるのではないかなと思います。そこに三つの箱が出現いたしました。イラスト奥にある長方形の箱がそれになります。平安時代の貴族の女性は、成人すると基本的に男性に顔を見せることはありませんでした。たとえそれが、父親や兄弟であっても同じです。しかし偶然、男性が垣根などの外から女性の姿を見てしまい、恋心を抱いてしまうということがあります。これが『源氏物語』の中にも出てくる「垣間見」です。当館の「宇治の間」で再現しております、光源氏の息子の薫が、宇治の八の宮邸を訪れた時に、有明の月の下で楽を奏でる大君と中の君を垣間見る「宇治十帖」の橋姫の巻は大変有名でございます。この三つの箱は、その垣間見を体験できる展示資料となります。そして、2回目のリニューアルで大きく変わりましたのが、イラスト右下になります「物語の間」でございます。以前はパネル展示だけでしたが、楽しみながら『源氏物語』を学ぶことができるエリアになりました。画面のポーズに合わせて体や手を動かし、楽しみながら『源氏物語』について学ぶ「動く源氏物語」は、コロナ禍の新しい生活を予想していたわけではないのですが、非接触型のデジタルコンテンツで、1人でも2人でも楽しむことができます。以前は「宇治の間」に展示しておりました「源氏物語の香り」は「物語の間」に移りました。右下イラストの手前に描かれているのは『源氏物語』から広がる世界をテーマとしたコーナーで、身近な香りを使って源氏香を体験し、フロアガイドに源氏香図のスタンプを押して持ち帰ることができます。『源氏物語』は千年余り前から現在まで絶え間なく読み継がれ、愛されてきました。『源氏物語』は文学作品として読んで楽しむだけでなく、絵画や能、歌舞伎、近年では映画やタカラヅカ、そしてアニメの中でも視覚化されてきました。江戸時代には『源氏物語』を象徴するものとして、各巻名に由来する源氏名や源氏香図が登場いたします。源氏香図は宇治の街中でも目につき、見かけることが多く、皆さんにとっても身近な記号になっているのではないかなと思います。例えばサスペンスドラマの中でダイイング・メッセージとして源氏香図が使われることがあります。それほど、身近なものになっていると思います。他にも「物語の間」には『源氏物語』巻一から巻五十四まで、当館の学芸員が解説いたしました「早わかり源氏物語」の大きなパネルがあります。

少し、話が逸れますが、恐れ多くも彬子女王殿下と同じ9頁の上段に載っておりますのが、当館自慢の学芸員2人でございます。当館の学芸員は、様々な博物館活動を行っており、それを通じて、多くの人たちを引きつける力をもっておりますので、当館にご来館された際は、2人の学芸引力(学芸員力)も感じていただければと思います。

この「早わかり源氏物語」ですが、4月から5月にかけてNHK で放送されておりました「いいね!光源氏くん」というドラマの中で、最終回に向けて波乱の展開となるきっかけづくりとして登場いたしました。ドラマの中の光源氏は千葉雄大が演じていたのですが、千葉雄大効果でしょうか、これが今、当館に訪れる女子たちがキュンとするフォトスポットとなっております。当館は、いろんなところにフォトスポットがあり、館内丸ごとフォトスポットと言っておりますが、再開した6月からは、この前で写真を撮っている女子たちを、かなり見かけます。「いいね!光源氏くん」ご覧になられましたか。千葉雄大扮する光源氏が現代に出現するという、ゆる~いラブコメでして、その第7話で、光源氏が自分のルーツを求めて宇治の源氏物語ミュージアムを訪れるということで、2月の最終休館日に、丸一日にかけて当館で撮影が実施されました。

さらに、イラスト左下になります無料の情報ゾーンの「源氏物語に親しむコーナー」も、プリクラをすべて撤去し、体験を通じて『源氏物語』の世界へと繋がり、文学や歴史、地域に興味を持つきっかけとなるスペースに生まれ変わりました。

そして今回のリニューアルの大きな目玉となりましたのが、当館3本目の映画となりますオリジナルアニメーション「GENJI FANTASYネコが光源氏に恋をした」です。前作の「浮舟」「橋姫」とは違い、「宇治十帖」の世界だけを描いているのではなく、光源氏も紫式部も藤原道長も登場しております。三つ折りの事業案内リーフレットの表紙が、アニメの紫式部で、奥でネコを抱いているのが光源氏です。リーフレットを開いていただきますと、光源氏に恋したネコがあちこちに登場しております。お尻に花のマークがあるので、ハナちゃんという名前です。先程のドラマ同様、光源氏が現在に出現して物語が始まるのですが、ドラマとは違いアニメでは平安時代にタイムスリップいたします。主人公は、宇治に住む女子高校生で、子どもたちにもわかりやすく、『源氏物語』の魅力がより多くの方に伝わるのではないかと思っております。アニメ目当てに来館される方も多く、以前と比べまして、ご家族での来館が増えております。声優陣も大変豪華ですので、まだご覧になっていらっしゃらない方は、ぜひ当館へ足をお運びください。なお、予告編につきましては市のホームページでご覧いただくことができます。また、オリジナルグッズは通信販売でご購入いただけますので、よろしくお願いいたします。

このような沢山のニューフェイスたちによって新しい驚きと発見、感動の機会を創りだすことができ、施設全体の魅力が向上したことで、リニューアルオープン後は、国内外から沢山の方にご来館いただくことができました。しかし今年に入りまして、1月下旬頃から新型コロナウイルスの影響が出始め、感染拡大とその防止のため、当館も3月から約3ヶ月間、臨時休館をしいられることになりました。6月2日にガイドラインに基づき、感染対策を計りながら再開いたしましたが、入館制限を実施し、利用も一部休止していることから、ご来館いただく皆様には大変ご不便をおかけしており、ご協力・ご理解をいただきながら、段階的に利用を再開しているといった状況でございます。ですので、今年度当初は、このような状況の中で、現在開会しております特別企画展につきましても、本当に開催できるのかなと心配しておりましたが、臨時休館中も両館の学芸員が継続して開催に向け前向きに取り組んでくれたおかげで、どうにか無事開催することができ、安堵しております。

それでは、令和2年度特別企画展「宇治を旅する、平等院を旅する」につきまして、ご紹介させていただきます。現在も多くの人たちが訪れる、藤原頼通によって建立された平等院は、江戸時代、宇治を描く名所図等に数多く描かれ、親しまれて参りました。今回の特別企画展は、平等院ミュージアムの鳳翔館と初めて共催させていただき、鳳翔館に収蔵されている貴重な資料を通して、平等院をはじめとする宇治の名所を紹介しております。この展覧会につきましては、1年前に当館の学芸員が鳳翔館と一緒にどのような展覧会を開催できるか考え、旅をテーマすることに決めましたが、新型コロナウイルスの感染が拡大した緊急事態宣言下では、旅は私たちの生活から最も遠いところに行ってしまい、当たり前だった旅をする日常は、もう戻ってこないのではないかと思ってしまったのは、私だけではないのではないでしょうか。ですが、緊急事態宣言解除後はGoToトラベルキャンペーンもスタートし、新しい生活様式を踏まえた日常を取り戻し始めたことが、特別企画展の開催に向け、強く後押しをしてくれました。

今回の展覧会では鳳翔館の貴重な収蔵品を当館で展示させていただいておりますが、来たんですね、鳳凰が。もちろん国宝の鳳凰は平等院ミュージアム鳳翔館にいらっしゃいますが、昭和25年から始まりました平等院鳳凰堂修理工事の際に作成され、工事中、実際に鳳凰堂の屋根に設置されていた鳳凰が来ております。この鳳凰が、今なら源氏物語ミュージアムでご覧いただくことができますので、ぜひお越しください。

本日こうして宇治鳳凰ロータリークラブ様の例会へお招きいただくことができましたのは、この鳳凰のお導きなのかな、高橋先生からお声がけをいただいた時に思いました。それで、今回タイトルはズバリ「鳳凰がきた」とさせていただきました。会期は今月末までとなっております。ぜひ、ご覧いただきますようよろしくお願いいたします。

なお、平等院ミュージアム鳳翔館では、秋期特別展「宇治を味わう 平等院を味わう」を開催されております。会期は当館よりも少し長く、12月14日まででございます。併せて足をお運びください。

先程ご紹介いただきましたように、実は私、宇治市歴史資料館の館長も兼務しておりまして、歴史資料館では特別展「古絵図の世界」を絶賛開会中でございます。宇治市では、昭和45年に宇治市史の編さんを開始し、昭和56年に完結いたしました。宇治市史は林屋辰三郎先生と藤岡謙二郎先生のご指導のもと、歴史学と地理学の協同により編さんされ、奥行きと広がりのある市史として評価されております。その後、昭和59年に開館した歴史資料館は、宇治市史の歴史学と地理学の協同という基本方針を受け継ぎながら、昭和、平成、令和と30年以上に及び、市域の歴史と文化を知る上で欠かせない歴史資料を収集し、その保存に努めております。今回の特別展では市史編さんに着手した昭和45年から半世紀の節目を迎えたことを機に、11月4日からは16年ぶりの公開となります宇治市指定文化財「宇治郷総絵図」を展示しております。こちらも、ぜひご覧いただければ、幸いに存じます。

最後になりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの生活を一変させました。そこに生まれた新しい日常は、これからも継続していくと考えられます。このことから、人で溢れる展覧会や自ら触れたり動かしたりして理解を深める体験型展示、定員を超える超人気講座、ワイワイ大きな声を出して行うワークショップ、ぷらっと立ち寄る楽しさなど、当館の当たり前だった風景も一変してしまいました。学芸員を中心に私たちミュージアムの職員は、リスクのある中どうすれば利用者が安全に感じられる観覧環境が整備できるのか、心待ちにされている講座等を開催できるのかを考え、手探りで実行に移しながら、6月2日の再開から6ヶ月経ちました。まだ、入館制限や利用の一部休止は続いております。子どもたちを対象とした事業は実施が難しく、歯痒い思いをしております。しかし、これからもミュージアムの楽しさを発進し続けていきたいなと思っておりますので、応援をよろしくお願いいたします。

まだ時間が残っておりますので、チラシの紹介をさせていただきます。

タイムトラベルスタンプラリー、ご存知でしょうか。もし、私の今日の話で「当館に行こう」と思っていただけた方がいらっしゃいましたら、ぜひご案内したい企画になります。

この企画は宇治市、亀岡市、舞鶴市の3市観光連携協会が主催していて、舞鶴市は舞鶴引揚記念館.亀岡市は大河ドラマ館、そして宇治市は当館において、それぞれのスタンプを集めていただき、抽選で賞品をゲットしようと言うものです。さらに特典がございまして、当館の南側、宇治上神社側の通路側にある掲示板にQRコードが貼ってあります。そこで、当館のスタンプをスマホ等で取得していただき、それを受付でご提示いただきますと観覧料が割引となります。600円の観覧料が480円になりますので、よろしければこのスタンプラリーにご参加いただいて、鳳凰 を見に来ていただけたらなと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

宇治市政だよりですが、平成30年、2年前のものになり、「宇治十帖」の物語を子どもたちが演じております。「宇治十帖」は皆さんもよくご存知だと思います。これを見ていただいた上で、当館に足を運んでいただき、「宇治の間」では短いシアターをしておりますので、「宇治十帖」の世界に触れていただければと思います。

先程、少し触れました入館者数ですが、当館はだいたい10万人前後で推移しております。公立の博物館としては優秀な入館者数です。現在、目標は16万人としておりますが、4月5月と臨時休館し、半分も戻ってきていないというのが現状です。やはり、インバウンドがなくなったというのが大きく、入館制限をかけておりますので、修学旅行等の団体の対応がかなり難しい状態です。それとやはり、旅行社のツアーがなくなっているということも、大きく影響しているのだろうなと思います。それでも、個人のお客様は、かなり戻ってきているのかなというのを、実感しております。土・日になりましたら、入館制限をしなければならないような状況です。映像展示室は、『源氏物語』五十四帖にあわせまして54席の座席数ですが、現在はそれを半分の27席にして上映させていただいております。換気とか、消毒の関係がありまして、15回だった上映回数は10回程度になっております。人数を制限し、密になる展示資料につきましては利用を休止、図書室につきましても、毎日ではなく、週2回の開室になっておりますが、本当に楽しみに来てくださるファミリー層がかなり多くて、特に、今回ご紹介させていただきましたアニメ「ネコが光源氏に恋をした」は大変評判です。宇治の方に、地元の方にぜひ見ていただきたいアニメになっております。「紫式部日記」を元にしておりまして、専門の方にもよくここまで表現したなとお褒めの言葉をいただいておりますので、ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。今回、このコロナで私たちも打撃を受けておりますが、宇治市民の方が、足を運んでくださる機会がかなり増えました。市政だよりに割引券を年2回つけていて、今までほとんどご利用いただくことがなかったのですが、この機会に、もう1回、源氏物語ミュージアムに行ってみようかと思われる方がかなりいらっしゃいます。市民の方に足を運んでいただいているというのは、2回目のリニューアルを実施する際の「市民の方にもっと利用していただける施設になりたい」といった思いが実現しているのかなと思います。大変な時期ではありますが、ぜひ当館の方に足を運んでいただきまして、宇治市にこんな施設があるんだということを、再認識していただければ、ありがたいなと思っております。よろしくお願いいたします。ご清聴ありがとうございました。

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