選挙報道の楽屋話

2018年9月13日


産経新聞 

京都総局長 木村成宏

京都勤務になる以前に大阪本社の選挙対策本部で選挙報道の責任者をしておりましたので、選挙に関して新聞社が取材のほかに、どんな作業やっているかというお話をしたいと思います。

まず、選挙の種類ですが、一番注目されるのが衆院選挙です。任期は4年ですが、任期満了を待たずにほとんどが解散で実施される選挙です。

参議院選挙は来年の7月にありますが任期6年で定数の半分を3年ごとに改選します。都道府県単位で選挙区があるのと全国単位の比例代表があります。先の通常国会で埼玉の定数が6から8になって、比例代表が96から100、定数が6増えることになりました。  

次は統一補欠選挙、これは衆参選挙で死亡、辞職した欠員を補充する選挙で4月、10月の第4日曜に行われるというのが原則になっています。

もう一つは来年春にある統一地方選挙です。任期4年の地方自治体の組長と議員の選挙。原則的に3月から5月に任期満了を迎える議員を選ぶ選挙です。一斉にやると投票率がアップしたり、経費削減につながるとして行われているのですが、任期途中で辞任したり、死亡したりしているので、選挙の統一率はもう30%を切っている状況です。

さて、昨年10月に行われた衆議院選の特徴としては、1票の格差を是正するために定数が10削減された選挙でした。もう一つは18歳、19歳の人が選挙権を得てから初めての衆院選挙だったということです。このとき、投票日翌日の10月23日までに18歳の誕生日を迎えた人が投票可能だったので高校3年生の中でも投票できる人とできない人が混在する形になりました。

もう一つの特徴は女性候補者の割合が前回の選挙は209人で、その前より11人増えて17.7%で、過去最高になったということです。それでも国際的に見ると、非常に低い状態で女性議員を増やす努力は必要といろんなところから指摘されています。

選挙結果ですが、自民党と公明党、与党合わせて3分の2の議席を超えて、憲法改正の国会発議も可能な状態になっています。

ただ、比例代表の政党別得票率を見ると民主党と、当時の希望の党を合わせると36%で自民党の33%を上回っています。野党が分裂して自民党の大勝を後押ししたのかなということです。

小選挙区の政党別得票率で見ると自民党が47%で他を圧倒しています。立憲民主党は8%で、希望は20%。これは理由があって全国289選挙区のうち自民党が候補者を擁立できたのは270、ほぼ9割以上の候補者を立てましたが希望の党は198、分裂した立憲民主は63しかなかったので、やはり安倍首相が電撃的に衆議院を解散したので野党は候補者が立てられなかったということです。

その結果、投票した票が候補者の当選につながらない、「死に票」と言われる票が多く生まれました。小選挙区では当選者が1人で第1党に有利な仕組みになっています。乱立する野党に投じられた、落選者に投じられた票は「死に票」になるわけです。

死に票の政党別の割合でいうと小選挙区と比例代表の復活で256人が当選した自民党が6.1%にとどまりました。94%ぐらいは当選者が生まれる票になった。公明党も9.9%で9割近い投票の中で候補者が当選しているということです。

逆に野党では候補者を206選挙区に立てた共産党は当選したのは5名だけで、投票した票のうち、94.8%が当選に繋がらなかった。198人中の45人の希望の党は6割、日本維新の会も6割5分ぐらいの票が無駄になっているという結果です。

立憲民主党で63選挙区のうち45人が当選している死に票率としては20%ぐらいにとどまっています。

選挙に関する新聞社の取材、作業の中で一番注目しているのは衆議院選挙の解散の時期です。これはいつ起こるかわからないので、この準備をするのはなかなか難しい。衆議院は4年の任期があるのですが任期を満了したのは三木内閣のとき1回だけです。

解散については、首相は嘘をいってもいいと言われています。衆議院では一般的に任期4年のうち、残り2年を切ればだいたい解散する雰囲気が漂ってきます。直近では、安倍首相が昨年9月28日に臨時国会冒頭で解散しました。この時の衆議院の在籍日数が1020日、平均の在職期間976日ということなので解散の時期は熟していたということです。

だいたいおよそ2年あまりで解散をしています。任期満了したのは三木内閣の1回だけで、その次に長かったのが麻生内閣の時の選挙です。当時の麻生首相も解散に踏み切れず、追い詰められて解散して、結局民主党に政権を奪われるというような事態になりました。

新聞社の方でも衆院任期は2年ぐらいをすぎると、正月明けとか、お盆とかに選挙の特集紙面を作ります。この時点ではまだ候補者がよくわからないですけども、現職とか、あらかじめ候補者が決まっている人の名前を紹介して、どういう選挙になるかという解説記事を掲載します。本社の選挙責任者をしていたのが2012年で、民主党から自民党が政権を奪還して、第2次安倍内閣の誕生につながった選挙です。

だいたい実際に選挙が行われる1年以上前からそういう準備を始めて正月用に次の選挙の立候補予定者の名簿や、選挙戦の構図とか、注目点などを紹介する特集紙面を作っていました。当時は6月ぐらいに消費税引き上げの法案をめぐって、与野党の対立が激化しことから、特集誌面を作りました。この時の候補者をあげたのは1002人ですね。

11月になって、当時の野田佳彦首相が、安倍晋三自民党総裁との党首討論の中で、16日に解散してもいいと宣言しました。その翌日に作った紙面では候補者の数が1183人に増えています。

次に選挙が実際に公示された日で1504人にまで増えました。この当時は民主党、自民党、日本未来の党、公明、維新、共産、みんなの党、社民、新党大地、国民新党、改革など、政党の数も増えました。

解散から公示日までの約20日間で1504人分の顔写真と経歴を全部集めるという作業をします。これはなかなか大変で、このときも候補者自体が捕まらない。経歴がわからない人もいっぱい出てきて、そのたびにその支局の記者とかに連絡を取って写真を撮らせてもらって経歴表を書いてもらうという作業をしていました。

これは候補者の経歴・顔写真をあわせた名鑑という記事を作成するための作業です。この名鑑では名前と年齢と党派、現職か、元職か、新人か、代表的な肩書き、学歴などを表記します。

しかし、字数が限られており、例えば、ファイナンシャルプランナーとか、コンサルタントとか長い名称の職業だと全然入らないですね。ですから無理やりFPとか、何とかコンサルというふうに略したりしています。

あと、限られた紙面で情報を掲載するために名鑑では政党の略称を使っています。自民党なら 「自」で、立憲民主党なら「立」とか、このとき12の政党が乱立しまして、「みんなの党」「みどりの風」、「日本未来の党」とか、全部「み」になるような政党がいっぱいできました。みんなの党は「み」みどりの風はカタカナの「ミ」、未来の党は「未」というふうに表記したりしました。

こういう名鑑を集めて全部で1500人あまりだったんですけども、それを全部チェックして、修正して各支局に確認してもらうという作業を行います。

参院選とか、統一地方選なんかもそうですけども、あらかじめ日程が決まっていますので準備はしやすい。しかし、衆院選だけはいつ解散されるか分からないので、短ければ20日間ぐらいで全部の作業をしないといけないということで大変です。

公示日の前日には、本社の近くのホテルに部屋をとるのですが、結局、ホテルに泊ることはなかったです。

公示後、どういう記事を書いているかというとこういう各選挙区の候補者の優劣を紹介する情勢記事を掲載します。各新聞社は公示直後の序盤の情勢、公示翌週の木曜日頃にだいたい終盤情勢という記事を掲載しています。選挙報道では基本的に名前の順序を原則届け出順で表記しています。ただ、この情勢原稿は世論調査をもとにした分析原稿なので、その届け出順で書かずに強弱、強そうな候補者を書いています。例えば、大きく電話による世論調査で差が大きく出ている場合は大きくリードとか、引き離しているとかの表現になります。

投開票日はNHK、民放含めテレビは午後8時前から、特番が始まります。投票が締め切られた午後8時には、得票0で大体100人以上に一斉に当確が流れます。投票が締め切られただけで開票作業がまだ始まっていないのですから、おかしいといえばおかしいのですが、それまでの世論調査の結果と各マスコミが投票日に全国の投票所で投票をおえた有権者に対して誰入れましたかと聞いています。その出口調査の結果を踏まえて判断しています。

出口調査ではっきりした優劣が出なかった選挙区は、開票所で得票を数えるという作業を行います。棚の上に200票ぐらいの票の束を開票にあたる職員の方が積み上げていくのでその束を数えて優劣をみたり、仕分けている票の名前を双眼鏡で覗き込んでカウンターでどれがどれだけ多いという優劣の傾向をつかんだりします。

だいたい衆院選の場合は午前0時~1時ぐらいに小選挙区の当選者がほぼ決まります。ただ、比例代表は翌日の朝までに決まります。

この日も徹夜作業になるのですが、人工知能(AI)の時代と言われますが。新聞社はまだまだ人力の作業を続けています。

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